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ニュース 2009年

「GCは新たな段階に入った」~潘事務総長が『GC2.0』を提唱~

更新日:

世界経済フォーラム本会議における潘基文国連事務総長の演説/「グローバル・コンパクト:持続可能な市場の創設を」

ダボス会議(ダボス、スイス)
2009年1月29日

来賓の方々、パネリストの方々、皆様、ここダボスで再びお目にかかれたことを、うれしく思います。
事務総長としては、今回が2度目のフォーラム出席となりますが、今年の雰囲気は、これまでの楽観的ムードとは大違いであると申し上げざるを得ません。
私は今年を多重危機の年と形容しています。

経済は苦境に陥っています。
企業と市場に対する信頼は大きく揺らいでいます。
世界各地の人々が雇用不安を抱え、生活に汲々としています。
しかも、私たちはこのような困難を抱えつつ、もう一つの危機に直面しています。
この危機は何年も前から、世界的な規模で進行しています。
気候変動というその危機は、開発と社会の進歩を目指す私たちの目標すべての達成を脅かしているのです。
それはまさに、この地球の存亡に関わる脅威といえましょう。
しかしその一方で、気候変動は私たちにとってまたとない機会ともいえます。
気候変動に正面から取り組むことで、世界同時不況の脅威を含め、目下の問題を多く解決することもできるからです。

皆様、私たちは一つの分岐点にさしかかっています。
選択肢があることに気づくことこそが重要なのです。
近視眼的な単独行動主義と惰性を選ぶのか、それとも、空前規模のグローバルな協力とパートナーシップの構築を選ぶのか。道は二つに一つです。
今からちょうど10年前、私の前任者であるコフィー・アナン事務総長がこの演壇に立ちました。そしてビジネスリーダーに対して、共有の価値と原則を定める「グローバル・コンパクト」の発足を呼びかけました。
アナン事務総長は、グローバル市場に人間の顔を与えようとしたのです。
当時も今も、世界は信頼性の危機に直面しています。
確かに、グローバリゼーションで多くの人々が貧困を脱出しました。
しかし、自由市場と資本の拡大という波から取り残された船も多くあります。
事実、世界の最貧層の多くは、さらに苦しい生活を強いられるようになりました。
グローバル・コンパクトは、私たちの英知を結集した対応策でした。
それは企業に対し、普遍的な原則を標榜し、国連と連携して大問題に取り組むよう求めたのです。
その中心的な存在がミレニアム開発目標でした。
あれから10年。グローバル・コンパクトはサステナビリティを目指す企業による世界最大の取り組みへと発展しました。
参加企業数は130カ国以上で6,000社を超えています。

グローバル・コンパクトは企業責任の代名詞になりました。
参加企業は単なる社会奉仕事業をはるかに越えた活動を展開しています。
人権と労働法の分野では、新たな「ベストプラクティス」の基準を開発しました。
多くの国々では、環境保護や腐敗対策も進めています。
また、全世界の国々で、保健や教育、インフラ整備のプロジェクト数百件にも着手しました。
そして今、新たに襲った危機がさらに使命感をかき立てています。
そこで私はきょう、皆様にグローバル・コンパクトの新段階に加わっていただくことをお願いしたいと思います。
この新段階はグローバル・コンパクト2.0と呼ぶこともできるでしょう。

皆様、私たちは新時代を迎えています。
新時代の課題をすべて克服できる道は、協力をおいてほかにありません。
現代には新しいリーダーシップの定義、つまりグローバル・リーダーシップが必要です。
そのためには、政府、市民社会、そして民間企業がグローバルな集団的利益のために力を合わせるという、新たな国際協力の形を確立しなければなりません。
このビジョンを青臭く、絵空事にすぎないと考える向きもあるでしょう。
しかし、そうではないことを立証する心強い事例が存在することも事実です。
企業がその主役となったケースも多くあります。
例えば、1960年代の「緑の革命」により、アジアでは数億人が貧困から脱出しました。
また、世界的な予防接種キャンペーンは、1979年までに天然痘の撲滅に成功しました。
企業と政府の協力により、オゾン層の破壊は停止、後退しています。
そして、エイズや結核、ポリオ、マラリアへの対策においても、着実な進歩が見られています。
私たちには今、こうした心強い事例をさらに増やしてゆくチャンスが訪れています。それは私たちの義務でもあります。
ただし、私たちは短期的思考に支配されることなく、長期的な解決策を模索してゆかなければなりません。
そのためには、人権、労働基準、環境、腐敗防止といったコア原則を堅持してゆくという決意を新たにしなければなりません。
それが新しいグローバル・コンパクトです。
昨今のような経済危機の下では、国家主義や保護主義など、世界的な共通目標よりも視野の狭い自己利益を追求しようとする「主義」が台頭しやすいことは承知しています。
こうした主義主張は間違っています。
それは単に、貧困層にも生計を立ててゆく公正なチャンスを与えるといった、グローバルな開発目標に反するからだけではありません。
そうすることで各国の自己利益自体が損なわれるからです。
現在、私たちが抱えている問題は、グローバルな性質を備えています。
私たちが力を合わせれば、その解決は可能です。
グローバル・コンパクトは、絶好の協力の場を提供します。
いくつか具体例をご紹介しましょう。
グローバル・コンパクトの「Caring for Climate」は、気候変動に関する世界最大の企業主導型イニシアティブです。
参加企業のCEOは自社の炭素排出量を開示し、包括的気候対策を講じることを約束しています。
参加企業はまた、再生可能エネルギーを利用し、エネルギー効率向上に投資し、ネットをつかった仮想会議などの気候に優しい実践を推進しています。
「CEO水マンデート」は、細流かんがいや雨水貯留などの戦略を通じ、水資源の管理を進めています。最新技術の導入により、産業用水を再生し、安全な形で環境に戻せるようになりました。
さらに、風力発電を利用し、人口100万人以上の都市に飲料水を供給できる淡水化プラントの建設も進められています。
金融市場でグローバル・コンパクトは「責任投資原則(Principles for Responsible Investment)」を通じて大口投資家との連携に着手し、その投資評価に重要な環境問題、社会問題、ガバナンス問題を盛り込むよう努めています。

皆様、景気の低迷と気候変動に見舞われた今、企業の利益はかつてない試練にさらされています。
しかし、ビジョンを持つ企業にとっての報酬は、それだけ大きいともいえます。
私がグローバルな「グリーン・ニューディール」と呼ぶ政策への関心は、ここ数カ月間で大きな高まりを見せています。
先週は米国で新大統領の就任式がありました。
バラク・オバマ大統領は「グリーン経済」の推進により、米国経済を再活性化することをはっきり公約しています。
グリーン経済とは、炭素の排出が少なく、エネルギー効率の高い経済を指します。
それによって雇用も生まれます。
持続可能な技術への投資は、現在の危機を将来の持続可能な成長へと変えることでしょう。
オバマ大統領のほかにも、このような針路を選ぶ政治指導者やビジネスリーダーが現れてきました。
よって、私は皆様全員に対し、サプライチェーンやビジネスパートナーを通じて、人権、労働者の処遇、環境、腐敗防止の各分野で優れた方針や実践を開発するよう求めたいと思います。
グローバル・コンパクトのアカウンタビリティの枠組みを利用して、進捗状況を毎年報告することもできます。
そうすることは皆様にとって、単なる正しい行い以上の意味を備えています。それは市場での信用、信認、そして信頼を取り戻す一助にもなるからです。
最近の世論調査の結果を見ると、企業に対する信頼が大きく揺らいでいることがわかります。
米国民の4人に3人は、1年前よりも企業に対する信頼感が薄れたとしています。
企業が正しいことをしていると信じている人々は全体のわずか3分の1と、以前の半分にまで落ち込みました。
特に目立つのは、若年層の信頼感の喪失です。
こうした結果は全世界に共通して見られます。
同じ調査によると、私たちに共通の問題に企業が本格的に取り組むべきだと考えている人々は、全世界で66%にも達しています。
これに異論を唱える者は3%にすぎません。

皆様、心すべきことは明らかです。

信頼がなければ、私たちに繁栄はありえないのです。

はっきりとした態度を示し、この問題に真剣に取り組むべき時がやってきました。
皆様の多くは、コスト削減で景気後退に対処されています。
しかし、将来の景気回復を見据えた組織の方向転換が重要だということについては、皆様にも異論はないと思います。
冷え込んだ景気は必ず回復します。
今、皆様が適切な投資を行えば、肝心の長期的課題に取り組む基盤が出来上がるのです。
皆様は来るべきグリーン経済の先陣を切ることになります。
私は皆様に対し、低炭素経済、つまりグリーン雇用、再生可能エネルギーおよびエネルギー効率に基づく未来を作り出す手助けをお願いしたいと思います。
また、今年末にコペンハーゲンで開かれる気候変動サミットにおいて、包括的で有意義な合意を求める運動にも加わっていただきたく存じます。
私はさらに、皆様のサプライチェーンを最大限に活用し、もっともクリーンな技術の開発と世界各地での応用を確保することも呼びかけたいと思います。
ぜひとも皆様ご自身が模範を示すことで、指導力を発揮してください。
消費者やサプライヤー、従業員を教育してください。そして貧しい人々と技術を共有してください。
万人が繁栄を享受できるような、持続可能な未来に至る道は、それ以外にないのです。

皆様、私たちは選択の時を迎えています。
今こそ信頼を回復しなければなりません。
そのためには、現実の問題について本質的かつ長期的な解決策を提示しなければなりません。
私たちが賢明なこと、正しいことをしているという信頼感を人々に与えることが必要です。
それは新たな経済、つまり将来の経済への投資にほかなりません。
賢明な利己心こそが、企業責任の本質であり、よりよい世界への扉を開く鍵でもあるのです。
ありがとうございました。

(日本語訳文責:GC-JN事務局)

潘国連事務総長のスピーチ(英文)は次のリンクからご覧になれます。

潘国連事務総長スピーチ(英文)(PDF:37KB)