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持続可能な開発目標(SDGs)

イノベーションを通じて「共通価値の創造」に取り組む~顧客の潜在的な問題を解決する「ソリューション」提案~

ネスレ日本株式会社

ネスレ日本株式会社

https://www.nestle.co.jp/

グローバル食品・飲料企業ネスレにおける「共通価値の創造」と社会問題解決のための取り組みについて、ネスレ日本執行役員/マーケティング&コミュニケーションズ本部 コーポレートアフェアーズ統括部長 嘉納様、同部ステークホルダーリレーションズ室 室長の冨田様に伺った。

ーまず御社がグローバルで掲げていらっしゃる「共通価値の創造(Creating Shared Value=CSV)」についてお教えください。

ネスレにおける「共通価値の創造」は、株主の皆様と社会に価値を創造するためにネスレのあらゆる行動の基本となる戦略アプローチで、ネスレの経営戦略です。注力エリアとして、「栄養・健康・ウェルネス」、「農村開発」、「水」、「環境サステナビリティ」、「人材、人権とコンプライアンス」を置き、42の具体的なコミットメントを掲げて取り組んでいます。

ネスレは2016年に創業150年という節目の年を迎え、「生活の質を高め、さらに健康な未来づくりに貢献します」という存在意義を明文化しました。この存在意義に動機付けられ、ネスレは2020年に向けたコミットメントの達成とSDGsの達成支援に向けた取り組みの指針となる以下の3つの包括的で長期的な目標を設定しました。今年のレポートではそれらの関係性を示した図が掲載されています。

ネスレが2030年に向けてグローバルで掲げる長期的な目標

ネスレが2030年に向けてグローバルで掲げる長期的な目標

https://www.nestle.co.jp/aboutus

ー2016年のNestlé in Societyレポート(2017年3月発行)ではネスレの取り組みとSDGsとの関連にも焦点が当てられていましたね。SDGsについては、社内ではどのように認識されているのでしょうか。

ネスレでは、SDGsを「共通価値の創造」の取り組みと関連付けるという方法をとっています。つまりSDGsができたから行動が変わったということではなく、ネスレが取り組んでいることをSDGsと関係付けているのです。その中で「SDGs」という共通言語をもって、周囲と話ができるようになったのは一つの利点と言えますね。

SDGsへの認識は、ここ最近で高まっていますが、「共通価値の創造」の実践という意識の方が強く、SDGsと「共通価値の創造」の結び付けについての認知は低いかもしれません。ただ、私たちの「共通価値の創造」は本業を通じて社会の問題を解決することであり、SDGsの「問題解決」という視点と大変近い関係にあり、結び付けを行いやすいとも感じています。

ーコミットメントは、野心的で必ず達成できるものでなくても良いという位置付けでしょうか。また、コミットメントの進捗を確認するためにもデータ整備と管理は重要な課題となっています。御社ではどのように進捗チェック・管理を行っているのでしょうか。

まず、大きな目標を立てないと、問題解決につながらないという発想が前提にあります。2030年に向けた野心的な長期的目標に向かって、2020年にはどんなコミットメントを持つかという点から、野心的でありながらも現実的な目標となっています。出来る範囲での目標を立てるとリノベーションレベルにとどまり、イノベーションは起きません。一定の予算の中で、投資のプライオリティも判断しづらいのではないでしょうか。

コミットメントの中にはまだ到達していない目標も出てきており、その理由もレポートで記載しています。的確に、透明性を持って情報開示をしていくことで、評価機関やステークホルダーから高い評価を得ています。この点を意識することで長期的視点の投資家、株主と付き合うことができるのだと思います。

以前は全世界に様々なデータやデータフォーマットがありましたが、短期間で整理できるようにするため、2000年代前半に大きな投資をして全社統一のシステムを導入しました。人事情報から製品情報まで、すべてのデータを一元管理できるようになっており、コミットメントに対する各取り組みの進捗状況をスイス本社がモニター・管理できるようになっています。

ネスレには「共通価値の創造」は全社員が行うものとの考え方から「共通価値の創造」を専任で担う特定の部門はありません。それぞれに関係する事業部へ、スイス本社から縦のラインで直接取り組み目標が降りてきており、進捗もその縦のラインで報告をしています。またスイス本社として国ごとの評価をすることはせず、グローバル全体での進捗を集計した結果、どういった状況なのかを見ています。

ーSDGsで重要なのは、データの整備と管理。途上国のデータ整備ができていない部分が課題の焦点になっている中で、ネスレのデータベースの状況は非常に先進的ですね。

こうしたことが可能になるのには、ISO26000やSDGsといった動きに関し、ネスレ本社の役員や専門部署が、専門領域のルール策定に関わってきていることがあります。世界の動きをいち早くとらえ企業内部に持ち帰ることで、トップのコミットメントを得て先んじて動いていくことが可能となっています。逆にルールメイキングの段階で関わっていなければ、対応はどんどん遅れ、決まったものに合わせざるを得なくなるでしょう。もし自分たちがこうしたいという考えを持っていれば、そうした場に関わった方が良いと思います。

ーグローバルでの取組体制がある中で、ネスレ日本としての自由度はいかがでしょうか。社会課題にも国による特異性があるかと思います。

仰るとおり、グローバル共通で取り組むことと、それぞれ事業を行う国ごとに抱えている社会問題は違います。グローバルでの人口爆発や飢餓といった社会問題に対し、日本は少子高齢化、人口減等と逆方向の動きをしており、そのアプローチも大きく異なってきます。

ネスレ日本では日本独自の社会問題も見出し、42のコミットメントに関係する項目に加えて、ビジネスに関連した重要課題を特定し、解決していくという活動をしています。重要課題の特定にあたっては、アンケート調査の実施とステークホルダーとの対話を行い、出てきたご意見を踏まえ、社内でビジネスの影響度も考えながら、どこにプライオリティを置くのかを考えています。

ー特定された社会課題に対し、「共通価値の創造」のために日本としてどのようなことに注力しているのでしょうか。

「共通価値の創造」のためには、イノベーションを起こすことが不可欠であり、そのため全社員が「考える」というプロセスを重要視しています。

現在のネスレ日本社長の高岡は着任後の2011年に「イノベーションアワード」という、全社員が個人で参加する年次の表彰制度をスタートしました。この取り組みは、全ての部門が誰かに対して仕事をしているという点で、誰もが「顧客」を抱えており、顧客が社会的・経済的環境の新しい現実(例えば、少子高齢化、デジタル化、女性就業増加など)において、新たにどんな問題に直面しているかを考え、発見し、解決へと導くためのアイデアを考えるというものです。表面的な顧客の問題ではなく、本人も気付いていないような、潜在的に抱えている問題の発見とその解決がイノベーションに繋がると考えています。

社員は顧客の問題とその解決策について仮説を立て、検証し、その結果を応募するのですが、仮説検証のためのファンドも社内に用意されています。優秀な成果を上げると賞金100万円が贈呈され、受賞対象となったアイデアは会社の戦略へと発展します。

応募されたアイデアとその成果がイノベーションにつながる原石なのか、審査をする役員や上長の見極める力も試されており、その点で全社員の考える力を養わせているという事実が、この取り組みの一番大きな特徴となっています。

この取り組みを始めた2011年の応募は約80件だったのですが、2017年は約4800件にもなりました。一人最低2件を応募することが定着してきています。

ー非常にユニークで、内部にそうしたイノベーションを起こす仕組みがあることに驚きました。そこから生まれた取り組みにはどのようなものがあるのでしょうか。

例えば「ネスカフェ スタンド」は、2016年のイノベーションアワード大賞の取り組みです。一般的に駅の売店は、新聞・雑誌・たばこが中心の商材であるため、近年は売り上げ・客数が減少傾向にあり、鉄道会社は新しい店舗のスタイルを模索していました。一方でネスレ日本は、「ネスカフェ」の家庭外での新しい体験を創出し、ユーザーを増やしていくという目標がありました。そこで、イタリアの「バール」をヒントに、人が集まる場所を駅にもつくり、コーヒーを飲みながら地域の皆様が気軽にコミュニケーションをとれる場所を提供できないかと考えたのです。このビジネスモデルは、鉄道会社が抱える問題の解決だけではなく、その駅を利用するお客様と、ネスレの問題も同時に解決することにも繋がりました。2016年12月に阪急電鉄様の塚口駅で1号店の営業を開始してからすでに、関西で22店舗、関東で3店舗を展開しています。(2018年2月現在)実際にビジネスとして成立していることが、社会問題の解決に長期的にコミットする条件だと思います。

「ネスカフェ スタンド」のイメージ

「ネスカフェ スタンド」のイメージ

https://nestle.jp/entertain/cafe/nescafestand/

ー上記の取り組みのように事業でイノベーション起こしていく上で、他企業、自治体といったステークホルダーとの連携の重要性についてどのようにお考えでしょうか。

大変重要だと考えています。実際にステークホルダーとの連携や、パートナーシップは活発になってきている事実もあります。自社で解決できる問題には限界があると認識しており、互いの強みを生かしながら、共通の課題解決に向けて、一緒に取り組むことが必要だと考えています。現在は高齢者の見守りを強化する事業等、他企業や自治体を巻き込んだマルチパートナーシップをかなり意識しており、こういった取り組みが最終的に「共通価値の創造」につながる事例を生んでいると感じています。

ー最後に社会問題解決のためのイノベーションと経営についてお聞かせください。

新しいビジネスは、この5年でどんどん生まれています。AIやIoTで多様なビジネスモデルの構築も可能になりました。自社商品も「おいしさ」を追求するだけではなく、職場のコミュニケーションを活性化したり、高齢者の見守りに繋がる役割を担うなど、新たなサービスの価値を提供しています。ネスレ日本では10年先に向けて、今、次のイノベーションを出しておかなければならないという長期的な視点と、毎年の販売目標を達成するという短期的な視点の両方を持ちながら事業を進めており、取り組みのスピードは年々早くなっています。世界で最も人口減少と少子高齢化が進む日本市場において、ネスレ日本は、先進国の問題解決に繋がるイノベーションを起こしており、世界各国が日本の事例に大変関心をもっています。

イノベーションアワードについては、SDGsを意識してやっているわけではありませんが、最終的に、本業を通じて社会問題を解決するという点では、SDGsと同じであると思います。SDGsありきで物事を動かすのではなく、まず世の中にある問題を発見し、その問題を自社の事業を通じてどのように解決していくかという視点で考えた方がわかりやすく、アクションを起こしやすいと考えています。

ネスレの場合、世界各国に現地法人があるため、ネスレ日本は、売上拡大のために海外へ販路を求めるのではなく、いかに国内で持続的に成長できるビジネスモデルをつくるかが重要となります。「考える」力を身に付けて、国内での社会問題を解決しながらビジネスの拡大を目指すためには、どこかにベストプラクティスを探しに行くよりも、まずは足元の問題を見つけることが大切だと考えています。

(取材・文=GCNJ泉沙織・IGES小野田真二/加藤瑞紀/矢野さやか 取材日2017/11/17)

取材こぼれ話
ネスレでは、新入社員採用試験の際から「考える」というプロセスをとても大切にしているとのこと。「イノベーション」の萌芽を作る一貫した「“考える力“を持った人」作りが、イノベーションを起こし続ける会社の礎になっているのだと痛切に感じました。