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持続可能な開発目標(SDGs)

ルールメーキングで気候変動への影響を緩和する――ダイキングループにみるサステナビリティ経営

ダイキン工業株式会社

ダイキン工業株式会社

http://www.daikin.co.jp/

ダイキン工業株式会社(以下ダイキン)におけるSDGsの取り組み状況を、同社CSR・地球環境センター担当課長吉澤正人様、同センターCSRグループリーダー中川智子様に伺った。

― 今年出された「サステナビリティレポート2017」では、SDGsとマテリアリティの見直しについて記載されています。どのようなプロセスと議論を経てマテリアリティを絞り込んだのでしょうか?

2016年に「CSR報告書」から「サステナビリティレポート」に名称を変更しました。CSRという言葉だけでは語れない持続的な社会の発展に合うように、ダイキンが今やっていることをサステナビリティという視点からしっかり表現したいと考えたからです。当社のグループ経営理念は10項目にわたってかなり細かいことまで明文化しており、それと戦略経営計画「FUSION20」を当社のサステナビリティと置いて、外部の視点を加味してマテリアリティを絞り込みました。
(http://www.daikin.co.jp/company/rinen.html)

今年のレポートでは、中長期にダイキンがどこに向かおうとしているのかを表現しようと試みました。なんといってもエアコン事業が売上の9割を占めるので、より良い室内空間を価値として提供することがとても重要です。エアコンが持つ社会価値とは何なのか、社会に対し当社が提供すべき価値とは何なのか、を皆で議論してきました。次の課題は、戦略経営計画と合致した具体的なビジョンを示すことですね。

サステナビリティレポート2017抜粋

― レポートではSDGsとの紐づけとマテリアリティの見直しが行われています。CSR委員会などの関連する会議体へボトムアップで上程していったのでしょうか?また、同レポートの9ページでバリューチェーンの図が掲載されていますが、どの段階が特に重要になるでしょうか。

発表直後に SDGsについてCSR担当役員がGCNJ代表理事から話を聞く機会があり、SDGsが道しるべとして有効だと確信したようです。そこでCSR委員会の下部組織である私たちCSR・地球環境センターが説明を重ね、会社として理解を深めていきました。
SDGsを紐づける際、ゴールレベルで事業との関連を考えると全ゴールが何らかの形で紐づきます。しかしそれはSDGsの取り組みで求められていることではないと思い、本業とかかわりの深いところに絞り込みました。ダイキンの事業領域から見ると気候変動が重要となりますが、ゴール13のターゲットは適応策で主に構成されていることもあり、あえてゴールレベルで整理しました。ただし気候変動に関しては、過去からずっと社内で議論してきたことですので、SDGsができたことで変えたことはありません。
バリューチェーンについては、全体を俯瞰し重要テーマを洗い出したいと強く思いました。人権視点では調達段階で一番関わりが多く、環境視点では開発・設計とユーザ使用段階でのインパクトが大きいと認識しています。人権の取り組みについては、EICC(電子業界行動規範)*の対象となる会社さんはかなり進んでいらっしゃるのですが、当社はその対象となっていなかったこともあり、まだ取り組みを始めたばかりです。いずれにせよバリューチェーンそれぞれでの重要性を特定する作業は、各機能で働く従業員の理解を深めることにもなるので、今後さらに深堀りしたいと思います。
*2017年11月にEICC(Electronic Industry Citizenship Coalition)は、法人名を「RBA(Responsible Business Alliance:責任ある企業同盟)」に変更。


― SDGsそのものが事業機会を顕在化させたわけではないのですね。

当社は気候変動が重要なマテリアリティですので、パリ協定によって、ダイキンの事業機会とリスクが明確になったと認識しています。私たちの主戦場は海外です。2013年にアメリカの会社を買収してから海外売上高が7割を超えるようになり、現在さらにこの構造は強まっています。新興国のメーカーの商品は安価ですが省エネ性は高くない傾向があり、消費者は安価な商品を選びがちです。そうした中、各国がパリ協定に合意し、地球温暖化対策の取り組みを進めることを約束しました。新しい環境技術で新しい市場環境を作るための規制を策定するようずっと働きかけてきたダイキンにとって、国の規制や消費者の意識の変化が大きな追い風になります。

― 具体的にはどのようなことをされているのですか?

気候変動の緩和に向けた環境技術の世界的な普及を行っています。ダイキンは世界で唯⼀、エアコンと冷媒の両方を手掛けるメーカーとして、電力消費と冷媒の両面から、気候変動の緩和に努めてきました。気候変動問題解決への貢献のための日本の優れた低炭素技術の世界展開は、競争優位性を確保に資するものとして、政府の未来投資戦略にも記載されています。政府とも協力しながら、低温暖化冷媒R32を海外で普及するためのルール作りを進めています。具体的には、国連や途上国政府・工業会の要請に応えて全世界で基本的な特許を無償開放するとともに、技術や安全規格に関する情報を提供し、各国の政策の中にR32の活用が盛り込まれるよう働きかけています。
2015年度からはタイにおいて、世界銀行とタイ政府からの要請を受けて経済産業省が立ち上げた支援プロジェクトに参画し、同年4月から現地メーカーを対象にR32への転換に向けた技術支援などを実施しました。続いて翌年2月には、マレーシア政府の要請によりマレーシアでも同様の支援を開始しています。こうした活動は日本政府との連携なしには実現しません。加えて、日本政府のみならず、UNEPなどの国際機関とも協業しています。差別化技術を市場に浸透させていくにはルール形成が不可欠ですので、市場が受入可能な技術を提示しつつ、国の規制や消費者の意識を気候変動対策に資するものに高めていく議論を行いながら、環境インパクトが大きい旧来技術からの転換に向け努力を続けています。

サステナビリティレポート2017抜粋

― ルール作りの活動はいつぐらいに始められたのですか?

私(吉澤様)が入社した90年代初頭には既に、例えばISO(国際標準化機構)やIEC(国際電気標準会議)などでの国際的な議論の場に参画していたと記憶しています。一度ルールが決まってしまうと、それらが各国の規制に反映され、それまで販売してきた商品が規格外となり事業ができなくなるリスクが生じます。ルール作りはとても大切なことで、政府、国際機関、業界団体など様々なステークホルダーとの連携の一つとして捉えています。自社の利益のためだけでなく、様々なステークホルダーを巻き込みながら環境技術の普及に向けたルールづくりを推進していくことで、市場、事業、環境がともに利益を享受できる「Win-Win-Win」の関係をこれからも構築していきたいですね。

― 他のプレーヤーとはどのような関係でしょうか?株主や投資家を含め、ステークホルダーとのエンゲージメントはどのようになさっていますか?

CSRに限定したエンゲージメントは行っていませんが、国々で空調・電力などの専門家を招いて、年1回5地域で「空調懇話会」を開催しています。日本の役員と現地役員が参加し、議論の結果を商品・サービス開発などに生かしています。アジアでは大気汚染が重要課題、北米ではエネルギーコストの低さから省エネそのものに関心が薄いなど、議論にも地域特性が出ています。
また、ESGなどの流れは社内でも理解されています。社外への情報発信の仕方も変えないといけないでしょう。この10月にIR部門主催で、サステナビリティレポートの説明会を投資家向けに開催し、事業とサステナブルな取り組みの関係性を説明したところです。コミュニケーションする際には、CSRを語るにも経営戦略と連動するよう心がけています。投資家からはだんだん環境以外のことも聞かれるようになってきたので、ESGとビジネスとをリンクして回答できるようにするのが今後の課題ですね。

― 最後に、CSR・地球環境センターでの取り組みを通じて、よかった思う時はどんな場合か、教えてください。

中川:私は以前は営業部門にいました。今のグループに異動してからは、見ている世界が変わりました。自社のあるべき姿を考え、それが戦略に反映され会社がその方向に動いていく時、やっていてよかったと思います。ずっと温めてきた会社の価値が形になり、きれいごとを超え事業を通して現実となっていくのを実感するとき、「やったー!」という気持ちになります。

吉澤:サステナビリティの取り組みを通じて、ダイキンが個社として言っている価値でなく、世の中に認められた活動だという実感が湧いてきますね。これまで冷媒に関わる仕事を20年してきました。それが、我々の独りよがりでなく世界のためになる活動だという太鼓判をもらった感じで、よかったなあと感じますね。その点、SDGsができたことが非常に大きく、わかりやすい共通言語として追い風になっていると思います。

(取材・文=GCNJ上野明子・IGES小野田真二 取材日:2017/11/22)

取材こぼれ話
インタビュー中、ずっとにこやかに対応くださった中川様と吉澤様。笑顔の受け答えから浮き上がってきたのは、ルールメーキングを通じたダイキン工業のグローバル競争戦略そのものでした。競争優位は一夜にしてならず、地道に積み上げるWin-Win-Winの連鎖に、同社の底力を垣間見た気がします。